高松高等裁判所 事件番号不詳〔1〕 判決
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴趣意は記録中の弁護人中平博、同楠瀬通の各控訴趣意書記載の通りであるからこれを引用する。
先ず中平弁護人の控訴趣意第一点について、
所論は被告人川村の本件所為は公文書偽造罪を構成しない。即ち文書偽造罪はその作成権限のないものが他人名義の文書を作成するによつて成立するものであるところ、本件は被告人川村自身の名義を以て作成された文書であるから作成権限のない他人の文書とはいえない。又この場合四国鉄道管理局高知電力区という印を押捺したのはその特定の公務所を独立して表示したものでなく、出納責任者川村武雄という特定人の肩書につながるものであり、公文書といえない。いずれにしても公文書偽造罪の成立には疑義があるというのである。
しかし原判決挙示の各証拠によつて被告人川村は本件当時四国鉄道管理局高知電力区助役であつたが原判示電柱代金代理受領承諾書というような証明文書については電力区助役には何等その作成権限がないことが認められ、又本件原判示承諾書はいずれも被告人がその職務の執行として作成したものでないことも右各証拠から明らかである。従つてその作成権限のない被告人が擅に公印を使用し、行使の目的を以て公務員又は公務所の発行すべき文書を作成した場合、その文書の作成名義が被告人本人名義のものであつても文書の形式が一般人をして公務員がその権限内において作成した文書と信ぜしむるに足るようなものである以上公文書偽造罪が成立すると解するのが相当である。そして本件の場合被告人川村は公文健吉の言を容れ、同人と共謀の上原判示のような意図のもとにいずれも行使の目的を以て原判示各証明文書に四国鉄道管理局高知電力区出納責任者川村武雄なる奥書をして庁印として同所備付の同電力区の公印を擅に押捺し、被告人川村名下にその私印を捺印して同人名義の公文書を作成したものであるからその公文書偽造罪の成立することは疑いを容れない。所論は結局いずれも理由がない。
同第二点、
所論は(一)被告人川村には本件詐欺罪について詐欺の犯意がない。(二)被告人川村に対しては期待可能性がない。又(三)被告人川村は本件詐欺罪については何等その実行行為に加担していない。従つてこれらの点について原判決には事実誤認があるというのである。しかし原判決挙示の各証拠を綜合すると本件詐欺罪について被告人川村と相被告人公文健吉との原判示共謀の点は優に肯認でき、記録について所論の点を検討しても被告人川村に本件詐欺の犯意は否定できない。又期待可能性云々の所論は本件の場合被告人川村において所論のように特に公文健吉から強迫されたと認むべき確証もなく又他にその所論を容れるに足る事情も認められないのでこの点の論旨は採用し難い。
更に又本件詐欺罪については前記の通り被告人川村と相被告人公文健吉との共謀の事実が認められるので詐欺罪について被告人川村において金員騙取の直接の実行行為に加担しなかつたとしてもその罪責を免れるものではない。論旨はいずれも理由がない。
次に楠瀬弁護人の論旨第一点、事実誤認の論旨について、
所論は結局被告人川村の所為は相被告人公文健吉の強迫によるものであり、その適法行為に出ることができなかつたものであるといい、中平弁護人の前記控訴趣意第二の(二)と同旨であるがその採用し難いことは前段に説明した通りであるから論旨は結局理由がない。
同第二点、及び中平弁護人の控訴趣意第三点について、
所論はいずれも原審の量刑不当を主張し、刑の執行猶予を求めるというのである。
しかし記録を精査、検討し、本件犯罪の動機、態様、被害額及び一般取引に及ぼす影響等考慮すると被告人に前科がなく、その家庭事情等につき所論の諸事情があつても本件事案に照し原審の科刑は相当であり、重きに過ぎるとは認められない。又刑の執行猶予の情状も認め難い。論旨は結局理由がない。
よつて刑事訴訟法第三九六条に則り主文の通り判決する。(昭和三三年七月二九日高松高等裁判所第三部)